recall
11/2.
ようやく嫌われたく無いという思いから生まれた集団行動に熱がとれてきたこの日、僕は早く起きた。
枕を物凄く高くして寝てた所為なのか、掛け布団を2枚にしていた所為なのか、はたまた寝る前に飲んだ「ミハイル」という麻薬錠剤なのか、理由は分からない。とにかくいい気にはならなかった。
ひどく脆い身体を起こして茫洋な部屋を見渡した。
知っているはずの場所が地図に載っていない、そんな不安になることないはずなのにどうやら僕は震えていた。怯えていた。
しばらくするとドアのノック音が聞こえた。
地を這うような低い、鈍った音
白目を向いた、あゝと詩をつけて遊びたかったぐらいな動き、僕はドアをそっと開けた。
「いやー、待ってたよ!生きてたんだね!」
「ここは天国じゃないぞ」
「わかってるさ、約束は守る」
そうして、タキシード姿の男は白いワンピースに所々傷をつけて着ていた僕の手を引いて罪を課せるように連れ去った。
大きな老樹木に木製のベンチ、手作りのレジャーシート、錆びついた鎖で作られた設置前のブランコ、こんなところに連れてきてどうするんだと思わざるを得なかった。
その場所に着くと、乱暴に僕を投げた。
幸い、芝生のように生えていた雑草に身を包まれて傷一つつかなかったが、痛みがなかったと言えば嘘になる。
「初めまして、」
手を差し伸べていいのだろうかと逡巡した身振り手振りで僕に近づく声の主は
とても綺麗でペトリコールのように切なく優しい笑顔、キンモクセイの匂いかの様な懐かしさを感じられた。
「ベロニカよ、よろしく」
「今何時だ?」
「ふふ、午前と午後の境目よ」
「おいおい、初めて会う人に向けた台詞か?」
「お前は黙ってろ、で?何の用だ?ベロニカさん」
「貴方に会ってみたかったの」
くだらない、素直に思った。
人と知り合うのは悪い気はしないが気がすすまない。
そんなことも忘れたかと、タキシード男を睨みつけたが彼は忙しそうに手帳に何かを書き込んでる。
絶対にわざとだ、証拠に口笛を吹きながら目観に皺を寄せてる。
これをみて、とベロニカは一枚の写真を出した。それは笑顔でアイスクリームを食べてる幼い頃のベロニカと顔がないピースサインがお似合いの少女が写っていた。
「これ、僕の彼女じゃないか」
「彼女に教えてもらったのよ」
「何がしたい?」
「ふふ…可愛い子ちゃん」
突然視界が真っ暗になった。
記憶が曖昧だ、不思議と身体が浮く。
うっすらと声が聞こえる
「一体どうするんだ?」
「とりあえず家まで運ぶのよ、他言無用よ」
また目が覚めた、ふらつきながら記憶を辿る。
「どうゆうことだよ!!!これ僕の彼女じゃないか!!!何をした!!!!!」
「約束を果たしただけよ?」
僕を後ろから強く抱きしめてそう言った。
涙で顔が崩れる、剥がされても何も変わらない。
「なんてことをした!!!!!ふざけるな!!!!!」
彼女は血まみれで十字架にかけられた様に壁にはられていた。
彼女もまた、僕と同じ白い傷ついたワンピースを着ていた。紅く染まってない真っ白なワンピース。
「やっぱり可愛いね、君は。私、飼うなら大きな犬がいいな」
「ぁぁぁがぁがぁががががががががが」
見覚えのある鎖、その匂いは血の匂いなのか錆の匂いなのか、
視界が狭くなる世界に溶け込んでいく僕は
何故か何処かで救われた気がした。
「貴方が大好きよ、嘘でも真でも」